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東京地方裁判所 昭和52年(レ)136号 判決

控訴人(第一審債務者) 日東総業株式会社

右代表者代表取締役 緒形真夫

右訴訟代理人弁護士 成田宏

被控訴人(第一審債務者) 株式会社産建住宅

右代表者代表取締役 安田裕彦

右訴訟代理人弁護士 竹内澄夫

同 大貫端久

同 森川廉

同 市東譲吉

主文

控訴人が当審において申請の交換的変更申立てによりなした仮処分申請を却下する。

右変更前の本件仮処分申請にかかる訴訟は、昭和五二年一二月一五日の当審第四回口頭弁論期日においてした申請の交換的変更申立て(同申請の取下げ)により終了した。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2  被控訴人(債務者)は控訴人(債権者)に対し、別紙目録記載の電話加入権の電話機を、控訴人事務所(控訴人の肩書住所地)において、控訴人が経営する不動産売買賃貸の仲介、金融の業務用に使用させよ。

3  被控訴人は、日本電信電話公社(池袋電報電話局扱い)に対し、前記電話加入権について、一時撤去(いわゆる局預け)の取消手続をせよ。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴人の右2、3項の申請を却下する。

第二当事者の主張

一  控訴人

1  申請の理由

(一) 被控訴人は控訴人に対し、昭和五一年七月二六日、別紙目録記載の電話加入権に基づき設置された電話機を、控訴人の営業場所を架設場所として、昭和五三年七月三一日まで控訴人に使用させることを約束した。

(二) 右契約に基づき、控訴人は本件電話機を、昭和五二年八月二日までは東京都豊島区西池袋三丁目二二番七号池田ビル内の旧事務所(旧本店所在地)において現実に使用し、同日、事務所を控訴人の肩書住所地に移転後同年九月四日までは、旧事務所において、職業別電話帳による顧客に対し電話番号の変更等を自動的に案内するいわゆる留守番電話装置を本件電話機に取付けて使用し、さらに同月五日以降は、池袋電報電話局との協議により、留守番電話装置と全く同一の機能を有する同電話局独自の案内テープであるアナヴンスマシン装置を取付けることにして本件電話機を局預けにして使用していた。

(三) ところが、同年一〇月二七日、池袋電報電話局から控訴人に対し、右アナウンスマシン装置を取外し以後案内テープを中止する旨の通告があり、その翌日通告どおりの措置がとられた。右措置がとられたのは、本件電話加入権の名義人である被控訴人が同電話局に対し、同年一〇月一〇日ころから再三にわたり、右案内テープを被控訴人方の電話番号に変更するように、もしそれができないなら案内テープを即時中止して本件電話機の局預けの状態を変更してはならない旨を申入れたためである。

(四) 控訴人は、右案内テープの中止により、本件電話機の使用が不可能になったため、電話帳の広告効果が全く得られず、現在計り知れない損害を被っているから、この損害を避けるため、第一、一、2、3項記載の仮処分を求める必要がある。

2  異議訴訟における申請の変更について

控訴人は本件申請の趣旨及び理由を交換的に変更したが、異議訴訟においては、口頭弁論を開いて白紙の立場から保全処分申請の当否を審判するのであるから、請求の基礎が同一である範囲において、原保全処分決定の内容に拘束されることなく、申請の趣旨、理由を変更することができるものと解すべきであり、かく解することは相手方に防禦の機会を与えることから特段に不利ではないし、従前の訴訟資料を利用できる点で便利であり、債権者に対して改めて新たな保全処分を申請させることは迂遠である。

二  被控訴人

1  控訴人のなした申請の交換的変更について

本件仮処分申請は、当初いわゆる処分禁止、現状不変更の仮処分申請であったのに対し、変更後の申請は、被控訴人に作為または不作為を命ずる仮処分申請であり、両者の申請の趣旨、原因は共に質的に異るものである。

また、本件は仮処分異議の控訴審であり、本件申請の変更が許されるとすれば、争点も全く異る申請の趣旨、原因の変更であるから、被控訴人の審級の利益を害するものであるし、本件変更によって訴訟手続は著しく遅滞するものと思われる。

よって、本件申請の趣旨および原因の交換的変更は不適法である。

2  申請の理由に対する認否

申請の理由(一)の事実は否認する。

第三疎明《省略》

理由

昭和五一年一二月三日豊島簡易裁判所が発した本件仮処分決定は、被控訴人に対し本件電話加入権の加入名義の書換、架設場所の変更、一時撤去その他一切の処分をしてはならない旨を命ずるとともに、第三債務者日本電信電話公社に対し本件電話加入権につき被控訴人の申請により名義の書換、架設場所の変更その他一切の変更手続をしてはならない旨を命じたものであり、右決定は、本件電話加入権がもと申請外東京大証総業株式会社に帰属していたところ、控訴人が同会社からこれを譲り受けたが、被控訴人は同会社との合意に基づかないで勝手に被控訴人の加入名義に書換える手続をしたとして、これに基づく控訴人の被控訴人に対する本件電話加入権の加入名義書換手続請求権(この点は原審仮処分異議手続において、控訴人が右申請外会社に対して有する名義書換手続請求権に基づき同会社が被控訴人に対して有する名義書換ないし抹消手続請求権を代位行使するものと整理された。)を被保全権利とし、その執行の保全を目的とする控訴人の申請に基づきなされたものであり、いわゆる係争物に関する仮処分としての電話加入権処分禁止仮処分である。しかるに控訴人は昭和五二年一二月一五日の当審第四回口頭弁論期日において、右被保全権利の発生原因事実に関する主張を撤回したうえ、事実欄記載のとおり、本件電話加入権に基づき設置された電話機を使用させる旨の契約に基づく控訴人の被控訴人に対する一種の使用借権を被保全権利として、かつ本件仮処分決定後控訴人がその事務所(右電話機を使用すべき場所)を移転したとして、被控訴人は控訴人に対し、右電話機を右移転後の事務所において使用させるべき旨及び日本電信電話公社に対し本件電話加入権について一時撤去の取消手続をなすべき旨のいわゆる仮の地位仮処分を求めると、申請の趣旨及び被保全権利を交換的に変更する旨申立てたのである。

以上の事実は本件記録上明らかである。

右によると、変更前の旧申請と変更後の申請とは、被保全権利を異にするのみならず、求める仮処分の類型、性質、内容を全く異にするものであるから、右両者は全く別個の仮処分申請といわざるをえない。そして保全訴訟手続における右のごとき交換的変更の申立ては、新たな申請を追加的に提起すると同時に旧申請を取下げる旨を一個の申立てによりなしたものと解するほかはない。

しかるところ、保全訴訟は既判力ある権利関係の確定を目的とするものではなく、申請取下げにより債務者に何ら不利益を与えないから、債権者は債務者の同意を要せず申請を取下げうるものと解すべく、従って右交換的変更により旧申請は直ちに取下げの効果を生じ、旧申請に基づきなされた本件仮処分決定は効力を失ったものというべく、このことは右交換的変更による新たな申請の追加が適法であるか否かにはかかわらないものと解するのが相当である(いったん追加的変更をした後に旧申請を取下げた場合と別異に解すべき理由は見当らない。)。

そこで次に、仮処分異議訴訟手続において、右交換的変更という方法による新たな申請が許されるかどうかにつき考えるのに、債務者が仮処分決定に対してなす異議は、仮処分申請につき口頭弁論を経ないで決定をもって裁判がなされた場合に、口頭弁論を開いて終局判決をもって裁判をなすことを求める申立であり、右異議による口頭弁論手続においては当初から口頭弁論の開始された場合と何ら異るところはないが、同時に既になされた仮処分決定の取消変更を主張しその当否につき再審判を求める申立でもあるのであるから、右異議訴訟において原決定の定めた仮処分を越える仮処分を求め、または別個の仮処分の申請をなすことは許されないと解すべきであり、かかる場合は別個に仮処分申請の手続をとるべきものである。よって当審における右交換的変更による新たな申請は不適法といわなければならない。

以上のとおりであるから、控訴人の変更前の本件仮処分申請にかかる訴訟は、前記申請の交換的変更申立て(同申請の取下げ)により終了したものであるから、その旨を宣言し、当審において交換的にした新たな仮処分申請は不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 濱崎恭生 裁判官 小林克已 西岡清一郎)

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